2018年06月27日

【深圳視察報告 その3(終)】全3回

深圳視察報告、第3回です。今回でおしまい。




■第3回の内容


■3 視察報告
●主な視察項目の紹介
(4)自動運転電気バス
(5)スマートホームシステム
(6)シンポジウム「SPEEDA × Newspicks 進化を続ける深圳」

■4 深圳に何を学ぶか
(1)新しいテクノロジーを、スピード感を持って社会実装する挑戦の姿勢
(2)挑戦者を広く集め、応援し、失敗にも寛容な姿勢





(4)自動運転電気バス


深圳巴士集団(深圳市所属の国有企業)と、国家智能交通系統工程技術研究中心(ITSC。国家スマート交通システム技術研究センター)によってはじめられた「阿尔法巴智能驾驶公交系統(アルファバ インテリジェント ドライビングバス システム) 」の開発は、深圳市交通委員会および福田区人民政府のサポートのもと、海梁科技有限公司(AI、自動車製造、公共交通運輸などの領域を専門とするビジネスチームと、広東民営株式投資有限公司、および深圳巴士集団が共同設立した企業)を実施企業とし行われた。4台の自動運転バスが、香港との国境の、人通りのあまり無い場所で試験走行している。「うまくいくかわからないが、とりあえず公道で試験を行っている」ところが、日本との違いである。まだ、我々がバスに自由に乗ることはできない。また、中国においても「運転席に人が座っていなければならない」法律ではあるので、まだ社会制度上の解決策は模索中である。

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海梁科技の製造した自動運転電気バス。

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自動運転バスの試験地であることを示す看板。フェンス越しに見える山々は香港。


(5)スマートホームシステム


智能家居(スマートホーム)システムの最大手、Wulian(南京物聯傳感技術有限公司)は、センサーネットワークを主目的とする近距離無線通信規格の一つであるzigbeeアライアンスに加盟しており、中国におけるIoTの牽引者である。「小白(シャオバイ)」という丸い小さなコミュニケーションロボットが、音声インターフェースとなって、スマートホーム内の様々な機能(空調の調節、カーテンやドアの開閉など)操作を行うモデルルームを視察した。Zigbeeは、転送可能な距離が短く低速度である代わりに、安価で消費電力が非常に少ないという特徴を持つため、スマートホームなど、センサーで様々な機能操作を行う場面に適している。消費電力が少ないため、おもに電池で駆動し、配線工事が不要である点も優れている。スマートホームシステムは、日本ではまだ導入も少なく、実施企業も少ない。

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丸いロボット。かわいい。

(6)シンポジウム「SPEEDA × Newspicks 進化を続ける深圳」



  • 講演①「中国イノベーションの最新事情」


田中年一氏 匠新(日中アクセラレーター)創業者CEO・XNODE(中国で最も国際的な中国アクセラレーター)マネージングディレクター

  • 講演②「中国ドローン産業動向と注目分野」


川之上和文氏 株式会社エクサイジングジャパン/翼彩創新科技有限公司CEO

  • 講演③コピーする深圳から、コピーされる深圳へ 深圳速度を生み出すエコシステム


高須正和氏 スイッチサイエンス(株) グローバルビジネスデベロップメント



世界最大級の産業・財務DBである「SPEEDA」や、経済ニュースメディア「NEWSPICKS」を運営する株式会社ユーザベース主催のシンポジウムであり、登壇者は深圳での活躍目覚ましい日系スタートアップの経営者たちであった。話の中で印象的であったのは、モバイル決済取引額の推移に、中国の直近の発展の特徴が表れているという指摘であった。モバイル決済取引額は、2012年には0.2兆元(≒3.3兆円)だったのが、2013年1.2兆円 → 2014年 6兆元 → 2015年12.2兆元 → 2016年58.8兆元と増加し、2017年には98.7兆元(≒1,646兆円)にまで膨れ上がり、世界第一位となった。2018年はさらに増え、165.9兆元(2766兆円)になる見込みであり、この額の取引をアリババとテンセントでほぼ独占している。モバイル決済の成長は、先に述べた通り、QRコードさえあれば、店側に決済端末が不要である点によると田中氏は分析する。また、アリババグループのアリペイ(支付宝、Alipay)の附帯機能として2015年に開始されたサービス「芝麻信用(Zhima Credit)」は、アリペイでの支払い履歴、個人の学歴や職歴、マイカーや住宅など資産の保有状況、SNS上での交遊関係などを点数化し、その人の信用スコアを算出しているが、この信用情報の共有によって、中国社会の様々な場面で求められ(えてして面倒であった)ていたデポジット(預け金)が不要になった点を紹介していた。

また、川ノ上氏からは、①物流 ②農業 ③警備 におけるドローンの活用事例が紹介された。農業では、ドローンでの農薬散布だけでなく、気象・太陽光・地面の水分などのデータを取得、組み合わせることで精密農業、ソリューションビジネスが可能であり、山西省で実際に運用されている。

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■4 深圳に何を学ぶか


(1)新しいテクノロジーを、スピード感を持って社会実装する挑戦の姿勢


今回の視察では、開発途中の自動運転電気バスなど、社会実装と実験を同時に行うような事例に多数出会った。シンポジウムでも、自動運転電気バス開発チームの話として「北京だと、まず失敗しない段階まで仕上げてからでないと実験さえできないが、深圳では現段階での実験でできる。うまくいかないことまで含めて、実験から得られるものはたくさんある」というエピソードが語られていたが、中国国内でも深圳のスピード感覚は圧倒的であることがわかった。横須賀市は、高齢化・少子化・人口流出のスピード感という点で、他自治体の先を走っていることは言うまでもなく、冒頭でも「人手に頼らないでよいものは、テクノロジーで解決し、本当に人が必要なところに人を増やそう」と私の思いを述べた通り、スピード感ある取り組みが求められている。

スマートホーム関連のテクノロジーは、スピード感をもって社会実装できる好例と受け止めた。例えば、ひとり暮らし高齢者の、ヒートショック(急激な温度変化で身体に異変が生じること)による浴室での溺死リスク軽減に、異変をセンサーで知らせるシステムは、技術的にはすぐにでも構築可能だ。日本全国での家庭の浴槽での溺死者数は 平成16~27年の11年間で約7割増加[1]し、平成27年に4,804人となっている。そのうち高齢者(65歳以上)が約9割を占めており、特に冬場に増加することから、ヒートショックへの対策は市民の生命を守るために有効ではないか。他にも、スマートロックは、配線工事が不要で、ドアノブさえ交換すればよいので、市内の貸し会議室に導入すれば、貸館施設の長時間利用化が、人件費をかけずに実現できる。その他、福祉専門職の意見を伺いたいところではあるが、介護老人福祉施設での夜間巡回など、専門職が担う仕事の省力化にも活用できるかもしれない。


(2)挑戦者を広く集め、応援し、失敗にも寛容な姿勢


行政は、市民の税を原資としそのサービスを提供する性質上、失敗に対して厳しい態度で臨まねばならないことは理解しつつも、本市にとって最も必要なことは、失敗に寛容な姿勢なのではないかと感じるところであった。政府・企業・一般市民がそろってスピード感を重視する深圳においては、失敗に対する寛容な姿勢を随所で感じた。一度失敗し、再起した起業家を称賛するなどのキャンペーンが深圳では見られ、南山区の広場には「跟党一起创业(党と一緒に起業しよう)」のスローガンがあり、挑戦をとにかく応援し続ける姿勢が感じられた。失敗に寛容な姿勢とは、ある程度のリスクを許容する姿勢とも還元できる。本市では企業の事業承継先が見つからないことが課題となっているが、新規にビジネスを立ち上げたい起業家と、これまで培ったビジネスを思いと共に引き継ぎたい事業家のマッチングも、必要な視点かもしれない。

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[1] 冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!(消費者庁、2018年1月)http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/release/pdf/170125kouhyou_1.pdf

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